近年、若者の間で広がる「生きづらさ」や「対人関係への不安」は教育現場における共通の切迫した課題となっています。
本記事では東京大学 遠藤利彦教授に、現代の若者に増加傾向にある「恐れ回避型」アタッチメントスタイルについてお話を伺いました。
遠藤先生は、この「恐れ回避型」の増加を単なる個人心理の問題ではなく、「心理学化する社会」の傾向と、現代の社会・文脈の変化から鋭く分析します。
本記事のテーマです。
・若者たちの「生きづらさ」の根底にある「恐れ回避型」アタッチメントの正体
・個人の内面にのみ要因を求める「心理学化する社会」への警鐘
若者の生きづらさ…他人に対する漠然とした恐怖と不安…「恐れ回避型」
「心理学化する社会」の罠~個人の心に”だけ”に要因を求めてしまう~
遠藤教授「心理学化する社会」という言葉が最近、使われています。
「心理学化する社会」とは何か。
それは何か問題が生じた際、その問題の原因を本人の心の問題、つまり個人の内側”だけ”に求める傾向が非常に強くなっている社会のことです。
しかし、現実に問題がおきるときには(その人自身の中に問題があったとしても)その人が置かれた家族、友人関係といった状況や文脈、さらには社会全体の要因が密接に絡み合って発生しているのです。
それにもかかわらず、私たちは個人の内部の心に問題を見つけようとする傾向が強まっています。
これは、心理学が誤った方向に応用されていると言えるでしょう。
だからこそ、問題があった個人だけでなく、その人が置かれた状況や文脈、そして社会に目を向け、その変え方を考えるという発想が必要だと思うのです。
そういう点で、おそらくビーンズさんは動いておられるのだろうと思います。
先ほどビーンズ長澤さんのお話を伺っていて思い出すのは、「生きづらさ」というキーワードです。


この「生きづらさ」というキーワードは2024年ごろから広く使われ始めたと思います。
私が出演したNHKハートネットTVでは「生きづらさ」をアタッチメントとの関連で番組化していただき、番組内では幼い子どものアタッチメントではなく、思春期・青年期のアタッチメントとして、人間関係の持ち方に深く起因する「生きづらさ」を取り上げてもらいました。
大人のアタッチメントを構成する「回避」と「不安」の2軸
大人のアタッチメントは、基本的に2つの軸で考えられます。
- 回避傾向: 人とどれくらい距離を置くかという傾向の強弱。
- 不安: 人から自分がどう思われているか、関わると嫌われて捨てられるのではないかという恐れ。
この2軸で分類すると、以下のようになります。
| アタッチメントスタイル | 回避傾向 人と距離を置く | 不安 嫌われる恐れ | 特徴 |
| 安定型 | 低い | 低い | 人間関係をうまく築ける |
| 拒絶型 | 高い | 低い | 自分に価値があると思い込み、他者を遠ざける |
| とらわれ型 | 極端に低い | 強い | 人間関係に執着し、注意を引きつけようとする |
回避も不安も低い人は一般的に安定スタイルで、人間関係をうまく保てる人です。
逆に、回避傾向だけが強く不安が弱い人は、自分に価値があると思い込み、他の人の存在をあまり意味がないと跳ねつけて距離を置く。
一方、回避傾向が極端に低く不安が強い人は、いわゆるとらわれ型、アンビバレント型です。
人間関係にとらわれて「自分を見て!」と他人の注意を引きつけようとして、しがみつく傾向があります。
増加する「恐れ回避型」~漠然とした恐怖にとらわれる



元々は上記の古典的な3類型でした。しかし最近は回避も不安も両方高い人が増えてきています。
他人に対しての漠然とした恐怖や不安から
「人が怖くて近づけない」
実際には恐怖や不安になるような場面に直面していなくても、
「きっとこれから怖いことがあるだろう」
…というイマジネーションの中での恐怖心が増えてしまい、人に近づけないのです。



私たちは「恐れ回避型」と呼んでいます。
今日の長澤さんの話に出たビーンズの生徒さんにあるという「ビクビク」の中核は、まさにこの恐れ回避型だと感じました。
ぶつかり合いの経験の欠如:恐れ回避型増加の一因
イマジネーションの中で恐怖が膨らむ背景



では、なぜ漠然とした恐怖や不安がイマジネーションの中で膨らんでしまうのでしょうか。
それは、現代の子どもたちが他人(他者)と「ぶつかる」という経験を、私たち上の世代に比べるとわずかにしか持っていないことが一因として考えられます。
そもそも、少子化によってぶつかるべき相手の絶対数が減ったということも挙げられるでしょう。
現代の若者の「生きづらさ」を構造的に捉えるために
本インタビューでは、遠藤利彦教授に、現代の若者に広がる「恐れ回避型」のアタッチメントスタイルについて、その特徴と社会的な背景を解説していただきました。
この「恐れ回避型」は、単に個人の内面的な問題として片付けるのではなく、
他者との「ぶつかり合い経験」の減少といった(少子化をはじめとする)社会の変化によって生み出されている側面もあるという示唆は、非常に重要です。
・個人の内面だけでなく、彼らが置かれた社会や文脈を理解したうえで、支援することの重要性
・対人関係の困難さを抱える若者への支援において、安全な環境で他者とのポジティブな「ぶつかり合い」を担保することの価値
次回記事では、幼少期の「ぶつかり合い」の経験が減ったことで生じる、若者たちの具体的な変化について、さらに深くお話を伺います!
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