具体例から理解したい方はコチラ
【はじめに】
こんにちは。Z世代社員育成の専門家、長澤です。
長澤啓(Nagasawa kei)
東京大学経済学部卒。1997年生まれ。
大企業・大企業の組合幹部向けの研修(ダイジェスト動画)・コンサルティングで、「Z世代社員の定着と活躍」のコツについてお伝えしている。長澤の取り組みについて詳しくはコチラ。
不登校支援専門塾である「学習支援塾ビーンズ」の塾長/副代表も務める。
今回のテーマは「本人の問題」です。
前回の記事では、Z世代の自己閉塞を生み出す要因として、
「社会の問題」と「周りの人の問題」について解説しました。
前回の記事はこちら👇

なお、本シリーズ記事を全て読んでいないor読む時間がない方はせめて👇の記事だけお読みになってから、本記事をご覧ください。

さて、前回の内容をざっくり復習しておくと——
- 衰退する経済
- 抑圧的な教育システム
- 孤独なライフスタイル
- 他人を助けない国民性
といった「社会の問題」が進行していることで、
- 親との関係
- 大人との関係
- 同世代との関係
という3つの関係領域が全て劣化し、
結果として若者たちは、
どこか一つの関係領域で嫌なことが起きても、
他の関係領域でリカバリーすることができなくなってしまいました。
つまり、かすり傷が簡単に致命傷(トラウマ化)してしまう構造が生まれているのです。
では、このような社会と周囲の問題が、本人の中でどんな“問題”を引き起こしているのか?
そして、その「本人の問題」がさらに社会や人間関係にどんな悪影響を及ぼしているのか?
本記事では、そこを丁寧に見ていきます。

↓↓本シリーズの記事のまとめ↓↓

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【本人の問題】
■絶対に失敗できないという呪縛

社会と周囲の問題によって、まず本人の中に芽生えるのが「絶対に失敗できない」という強い呪縛です。
ここでいう“失敗”とは、主に以下の2つに集約されます。
- 他人に迷惑をかけて嫌われること
- 競争における敗北
つまり、周囲に自分を受け入れてくれる余白がないという前提のもと、
「一度のミスで見捨てられるかもしれない」
「負けたらもう取り返しがつかない」
という感覚に縛られるのです。
本人の主観の中では、先行きの見えない社会です。
誰かが助けてくれる見込みも薄く、リスクを取って挑戦するより、
「確実にミスを避けること」
が生き延びる唯一の手段に思えてしまう——
それが自己閉塞に陥った一部のZ世代のリアルな心理状況ではないでしょうか。
■過度なリスク回避志向・恐怖ベースの成長意欲

こうした「失敗できない」という呪縛のもとで、次に形成されていくのが、以下2つの価値観です。
① 過度なリスク回避志向
② 恐怖ベースの成長意欲
まず①から見てみましょう。
これは文字通り、「安心・安全」と見える選択肢ばかりを選ぶ傾向です。
たとえば、安定してそうな会社に入りたがる(実際に安定しているかどうかはさておき)、好かれるよりも「嫌われない」ことを最優先する、自分の本音や弱さを見せない——といった行動です。
人間関係においても、リスクを回避しようとするあまり、相手の本音に踏み込むことを避け、表面的な付き合いにとどまりがちになります。
さらに、孤独でも一応は生活できてしまう現代のライフスタイルは、「深く関わる」ことにそもそもインセンティブを持たせません。傷つくくらいなら最初から関わらない、という選択が合理的になってしまうのです。
次に②の「恐怖ベースの成長意欲」について。
これは、成長することそのものを喜びとしているわけではなく、「失敗しないために成長しなければならない」という義務感による動機です。
つまり、成長も学習も、「不安から逃れるための道具」と化してしまう。こうした恐怖ベースの努力は、やがて燃え尽きやすく、自信にもつながりにくいのです。
学生時代に高校生男子の授業を受け持っていました。
(言っていなかったですが、私は大学1年の頃から、現在塾長を務める学習支援塾ビーンズで不登校支援に携わっています)
その子は見た目もしゅっとしていて、彼女もいて、バイトも頑張っていて、コミュ力もすごく高い……
といったぱっと見は元気そうな高校生でした。
ところが……
進路選びの授業が始まった途端に、私の授業に来てくれなくなったんです。
1か月後、再び授業に来てくれたんですが、彼から発された言葉は衝撃でした。
本人:「長澤先生、僕はMARCHレベルの大学に入学しなきゃダメだと思います……(めっちゃしんどそうな顔)」
僕:「ほう。なんでMARCHなん?」
本人:「MARCH以上じゃないと大企業に入れないからです」
僕:「!? ち、ちなみに大企業に入れないとどうなるの?」
本人:「まあ、究極ホームレスですかね」
僕:「!!!??? なるほど…… ちなみに、大企業ってどんな会社をイメージしているの?」
本人:「○○(一時期過労死問題で有名になった会社)とかですかね?」
僕:「…… ちなみに、○○ってあの過労死の?」
本人:「そうです」
僕:「○○が何している会社か知ってる?」
本人:「知らないです」
僕:「整理すると、究極な話、ホームレスよりかはブラック大企業の方がマシで、そのブラック企業に行くために勉強頑張らなきゃと思ってたということ?
本人:「まあ、極論、そういうことになりますね」
そりゃ、進路のことなんて考えられないですよね……
なお、6年たった今、彼はゴリゴリのベンチャーでバリバリ働いています(笑) その6年間で色んな経験をしたからこその変化なのですが、それはまた別の物語……
こちらも私が大学生時代に出会った不登校の女子高生の話です。
その女子高生もぱっと見は元気でかなり頭の回転が速く、大人(特に社会でバリバリ活躍している人たち)にすごくかわいがられるような子でした。
特筆すべきはその子が自分で事業を立ち上げ、実際に数十万の売り上げをたてていたことです。いわゆる、高校生起業家ですね……
当然、外部の大人たちからは褒められまくります。本人も大人たちの前では「明るく、素直で、事業に前向き!」といった雰囲気でいました。
ただ、私の前に来ると、事情が少し違いました……
私の前ですごく暗い顔なのです。事業はうまくいっているのに……
そして、こんな本音を打ち明けてくれたんです。
「長澤先生、実は私は前向きな気持ちで事業をやっているわけじゃありません。外の大人の前ではキラキラ感を出していますが、実は全く違うんです。私って普通に学校に行けないダメな子じゃないですか。勉強もできません。だから、起業でもしないと大人たちから褒めてもらえないんです… あと、ぶっちゃけ、どんな風にふるまえば大人が喜ぶかなんて全部わかっているんです。」
さて、世の中にはキラキラまぶしく大活躍しているZ世代もたくさんいます。そのような人たちを見て、一部の上司世代の方々は「長澤の言うことは間違っている! だって活躍しているZ世代だってたくさんいるじゃないか!」とおっしゃいます。もちろん、本当に元気に活躍しているZ世代だっているでしょう。ただ、全員そうなのかと言われるとかなり疑問です。
さらに、一部の自己閉塞性の高いZ世代は恐怖ベースの成長意欲(前に紹介した評価獲得行動)として、頑張っているだけかもしれません。また、上司世代の皆さんに対しては演技しているだけかもしれません(先述の高校生のような地頭が良い子の演技力は本当にすさまじいですよ…… 今まで他人の目を気にしてきた=観察力が高いので、どれも名演技です)。
このあたりも是非、理解していただけるとうれしいなと思います。
■他人と深く関われず、仲間も成果も得られない そして自信をなくす

こうした価値観で行動していると、当然ながら「仲間」ができにくくなります。
特に、人間関係におけるリスク回避志向が強いと、
深い自己開示や、本音のコミュニケーションが難しくなり、信頼に基づくチームが築けません。
また、恐怖ベースの成長意欲だと、いざ困難に直面した時に踏ん張りが効かない。
要は、馬力が出ません。
その結果、仲間もできず、成果も出にくく、自己肯定感はどんどん下がっていきます。
「誰も助けてくれないし、自分も大したことができない」
「自分も環境(他人や組織)も、何もかもが嫌だ」
こうして、典型的な「自己閉塞」の状態に陥っていきます。
そしてここが厄介なのですが、
自己閉塞になると、さらにリスクを取らなくなり、恐怖ベースで努力し続けるという、負のループに入ってしまうのです。
■余裕のなさと無知ゆえに、周りの人から愛されない自己閉塞行動をとる

さらに、自己閉塞の状態が長引くと、「周囲との関わり方そのもの」がわからなくなっていきます。
なぜなら、深く人と関わった経験が乏しく、
成果も出ていないため、自信がなくなり、「自分を守ること」に精一杯になってしまうからです。
具体的には以下のような行動が見られます。
- 大人との関わり方を知らない
例:時間を割いてもらったときや、おごってもらった時のマナー(感謝や礼儀)がわからない(※) - 同世代との関わり方を知らない
例:チームメンバーからのチャットに返信やリアクションができない、無視してしまう
※
ちなみに、私は仕事柄、大学生の皆さんに食事をおごったり無償で夜遅くまで相談にのったりすることが多いです。ただ、まだ関わり始めたばかり大学生だとおごられても「いただきます」「ごちそうさまでした」が言えず、相談にのっても「ありがとうございました」というお礼がないことがほとんどです。もちろん、時間をかけてゆっくりと上記のマナーを伝えていきます。そして、その結果マナーが自然と身についていくのでイライラはしません。
これらは、無知と余裕のなさゆえで、本人に悪意があるわけではないです。
ただ、結果的に周囲から「かわいげがない」と受け取られがちです。
そしてここから、また新たな「三大トラウマ」が形成されてしまいます。
- 大人トラウマの再強化
「この子、なんか感じ悪いな。もう関わらんとこ」と距離を取られてしまう
→「やっぱり大人は助けてくれない」と思うようになる - 同世代トラウマの再強化
「この人、私のこと結局助けてくれないんだ…」と失望されてしまう
→「誰にも本音を見せられない」という孤立感が強化される
つまり、本人の「問題行動」は、単なる性格の問題ではなく、構造的な背景を持っており、
それがさらに周りの人の問題(とおそらく社会の問題も)を悪化させるサイクルを生み出しているのです。
【おわりに】
さて、これで「Z世代社員のしんどさの根っこ」シリーズは完結です。
当初は4回シリーズの想定でしたが、気づけば全9回になってしまいました(笑)
にも関わらず、多くの方にお読みいただき、大変うれしく思っています。
私のSNSなどを通じて、企業人事の方や教育関係者から、
「勉強になる!」
「めっちゃ面白い!」
というありがたいお声を多数いただいており、「書いてよかったなあ」としみじみ感じております。
今回のシリーズでお伝えしたことを、ぜひZ世代との関わり方の参考にしていただけたら嬉しいです。
なお、このシリーズはこれで一区切りとしますが、私の記事はまだまだ続いていきます。
次回は——
これまで「Z世代社員が自己閉塞という心理的課題を抱えている(=とてもデリケートである)」という話を繰り返してきました。
今のところポジティブなお声が多いのですが、より多くの方に読まれるにつれて、
以下のような声も増えてくるだろうと予想しています。
(特に、上司世代の方から)
- 「世代でくくって議論するな!」
- 「そんなこと書いたらZ世代が傷つくだろう!」
- 「ラベルで判断するな。人をその人自身として見ろ!」
- 「人と人の真摯なコミュニケーションを理論で語るな!」
私は、こうした声が寄せられることを前提に、今回の発信に踏み切っているのですが……。
次回は、こうした“ネガティブな違和感”を抱かれる方に向けた、私なりのメッセージをお届けしたいと思います。
次回記事はコチラ!👇

それではまた!
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