悩めるZ世代社員に必要な「ベースコミュニティ」とは? ― あつい青春に向けたスモールステップ

学習支援塾ビーンズ
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目次

はじめに

こんにちは。Z世代社員育成の専門家、長澤です。

前回の記事👇では、悩めるZ世代社員に必要なのは「青春」だ、という話をしました。特に、「あつい青春」こそが彼らを変えていく力を持っているとお伝えしました。

ただし「あつい青春」とは、高負荷・協力・創意工夫が必要になるものです。
濃密な人間関係の中で、負荷の高い挑戦をする覚悟と準備が必要になります。

だからこそ、いきなり飛び込むのは難しい。
準備が整っていない段階で無理をすると、むしろ心が折れてしまうリスクが高いのです。

つまり「あつい青春」はとても大事だけれど、そこに至るまでにはスモールステップが必要だ、というのが前回の結論でした。
では、そのスモールステップをどう設計するか。今回の記事では、その答えとなる「ベースコミュニティ」という概念について解説していきます。

ベースコミュニティとは?

私が提案する「ベースコミュニティ」とは、
Z世代社員がいきなり高負荷な挑戦や濃密な人間関係に巻き込まれるのではなく、
受け入れやすい範囲の負荷と人間関係を提供する環境のことです。

要は、いきなり本番の「あつい青春」に入るのはしんどい。
でも、その前段階でウォームアップできる場があれば、徐々に人との関わり方に慣れ、力を発揮する準備を整えていける。

そんな機能を持つのがベースコミュニティです。

ベースコミュニティの7条件

学習支援塾ビーンズ

では、具体的にどんな条件を満たした環境がベースコミュニティと呼べるのでしょうか。私は次の7つの要素を挙げています。

① 多で疎な人間関係があること

人間関係の線が多いけれど、その一つひとつが薄い関係。

「大会で勝つぞ!」的な負荷の高い目標を掲げて全力で活動しているわけではなく、
ゆるい活動をしている大所帯の大学サークルの人間関係を思い出してもらえるとわかりやすいでしょう。

このような場では、一つの関係でトラブルがあっても替えがききますし、
そもそも人間関係が薄いので深刻なトラブルに発展しにくい。
リスクヘッジが効くのです。

逆に「少で密」な人間関係だと、一つのトラブルが大きなダメージになりやすい。
もちろん「あつい青春」には「少で密」の方が向いていますが、まずは「多で疎」で慣れていくのが現実的です。

② 大義名分があること

Z世代社員の多くは「道具としての価値を発揮しなきゃ」という恐怖心を抱いています。(詳しくは👇)

そのため「楽しいよ」「友達作れるよ」とだけ言われても、「でも役に立たないじゃないか」と警戒してしまうのです。

だからこそ「これは会社の役に立つ」「あなたのキャリアに資する」「れっきとした仕事だ」などといった大義名分が不可欠です。

《コラム》不登校に悩む10代の場合

私が塾長を務める学習支援塾ビーンズでの不登校の10代への対応も同じです。ビーンズにやって来る生徒は本心では「同世代と友達になりたい」「同世代と遊びたい」と強く望んでいます。

ただ、そのような生徒たちの多くは「今度、ゲーム大会するからおいでよ!」と誘っても来てはくれません。なぜならば、「多くの同世代は毎日学校に行ったり辛く苦しい勉強を頑張ったりしている。にも関わらず、不登校の分際でゲーム大会に行っちゃたら、僕はますます落ちこぼれ確定じゃん……」といった心理的ストッパーが生じてしまうからです。

ですから、そのような生徒は、あえて「みんなで進路について考える授業をやるよ」という建付け(大義名分)で誘います。そして、実際に真面目に進路について考える時間を少しだけとった後に、「今日はものすごく高レベルなことをしたから息抜きしたいね。さらに、今後みんなで一緒にやっていくためにはお互いを理解する必要があるから、ゲームでもするか!」というノリで本命のゲーム大会にしれっと移行するのです。

③ 楽しい仕事があること

大義名分だけあっても、仕事が辛ければ「やっぱり役立つことはしんどい」と思い込んでしまいます。

大義名分を大事にしながらも、楽しい仕事を中心に据えることが重要です。

④ 片手間でできる簡単な仕事があること

まだ育ちきっていない段階で難しい仕事を任せ、失敗させてしまうのは逆効果です。ベースコミュニティでは、片手間でできるレベルの簡単な仕事を用意しておくことが大切です。

⑤ プチサボりチャンスがあること

人目を気にせず、ちょっとだけ休める「プチサボり」ができることも大事です。完全に一人になれる「ガッツリサボり」は引きこもりを助長するのでNG。ほどよく緩む余地を設計する必要があります。

⑥ 愛のファシリテーターがいること

自己閉塞性が高いZ世代だけで集団をつくると、お互いに比較してパワーダウンしてしまいます。だからこそ、ちょっと上の先輩がファシリテーターとして伴走することが欠かせません。

⑦ 平等な関係があること

上下関係が露骨に見えると、「上位の人に道具として品定めされるのでは」と萎縮してしまいます。ベースコミュニティではなるべくフラットな関係性を保つことが必要です。

具体例でベースコミュニティを説明すると……その①

まずは、私が塾長を務める「学習支援塾ビーンズ」での事例です。手前味噌で恐縮ですが…。

ビーンズは、不登校などに悩む10代が通う学習支援塾です。
ここでは大学生メンバーが主力となって運営を担っています。

入塾時には心がボロボロになっている10代へのマンツーマン対応や、同じく心が疲れている保護者の対応(全て、かなりの感情労働)、さらには新メンバーの採用・育成まで、大学生が主体的に背負っています。

しかも、一人前として現場に立つまでには何か月もの研修と修了テストが必要で、現場に立った後も研修やテストが続きます。
つまり、大学生たちは「少で密な人間関係の中で高負荷な仕事」を強いられる環境にいきなり飛び込むことになるのです。

その結果、数年前までは、大学生の定着率が非常に低いという課題を抱えていました。

そこで導入したのが「ビーンズフリースペース」というプログラムです。

普段はマンツーマン対応が中心のビーンズを、定期的に生徒同士が遊びを通じてつながれる場として開放。
その運営を、正式メンバーになる前の大学生ボランティアに任せるようにしたのです。

大学生ボランティアは、このフリースペースで経験を積みながら、やがて正式メンバーとして現場の中心を担っていきます。
もちろん、生徒たちへの効果を第一に考えて始めた施策ですが、同時に「ベースコミュニティ」として機能させることで、大学生人材の初期育成と定着を実現する狙いもありました。

(※ここは強調したいのですが、まだ「ベースコミュニティ7条件」をすべて満たしているわけではありません。だからこそ、今後さらに伸びしろがあるとも言えます。)

結果的に、大学生人材の定着率と成長率は大きく向上しました。

では、このビーンズフリースペースが「ベースコミュニティの7条件」をどう満たしているかを見ていきましょう。

  • ①多で疎な人間関係
    普段のマンツーマン対応とは違い、20人ほどの生徒に対して10人程度の大学生ボランティアで関わります。さらに、ボランティア同士で濃い対話をする場はあえて少なくなるようにしています。
  • ②大義名分
    「不登校に悩む10代に同世代とつながる場や居場所を提供する」という明確な大義名分があります。
  • ③楽しい仕事
    ボランティアが取り組むのは基本的に10代と一緒にゲームをすることや楽しくおしゃべりをすること。
  • ④片手間でできる簡単な仕事
    「片手間」とまではいきませんが、ビーンズの中では簡単な仕事に分類されます。ビーンズフリースペースに来る生徒は、すでにある程度状況が改善している子が多く、対応の難易度は低め。また、生徒数に対して多めにボランティアを配置することで、一人あたりの負担を軽減しています。つまり、マンツーマン対応よりはるかに簡単な仕事になっています。
  • ⑤プチサボりチャンス
    教室が狭いという物理的制約もあり、まだ完全ではありません。ただ、あえてボランティア人員を多めに配置することで、自然と「手持ち無沙汰になる時間」を生み出し、そこで立ち話をする余裕が生まれています。
  • ⑥愛のファシリテーター
    専門研修を受けたベテランメンバーを配置し、ボランティアの様子を常に観察。孤立しそうな子をフォローする体制をとっています。
  • ⑦平等な関係
    私のような社会人スタッフは基本的にフリースペースには立ち入らず、場を見守る程度。上下関係をできるだけ感じさせない工夫をしています。

具体例でベースコミュニティを説明すると……その②

次に、ビーンズの運営の中で直面した「ライバル」についてです。大学生人材の採用・定着で、意外にも強力な競合になるのは「居酒屋バイト」でした。
他の高時給の塾バイトや、イケてるスタートアップの長期インターンではなく、居酒屋バイトがライバルになるのです。

もちろん、居酒屋バイトに打ち込むことを心から納得して選んでいるなら問題はありません。しかし、「私は居酒屋でバイトを続けすぎてはいけないんです…」と涙ながらに吐露する学生も、惰性で続けてしまうケースがあります。

おそらくこれも、一部の居酒屋バイトが「本人にとって悪い意味でベースコミュニティとして機能してしまっている(悪い意味で居心地が良すぎる)」からだと思います。

例えば:

  • ①多で疎な人間関係
    複数名の大学生とシフトに入り、目の前はお客様対応なので人間関係は濃密になりにくい。
  • ②大義名分
    「お金を稼ぐ」「店舗運営を支える」という大義がある。
  • ③楽しい仕事
    居酒屋バイトに応募するような人好きの大学生にとっては明るい接客は楽しく、仲間との協力も「学祭の模擬店を毎晩やっている」感覚で青春っぽさを味わえる。
  • ④片手間でできる簡単な仕事
    本質的には奥が深いものの、大学生でもすぐ戦力化できる程度の簡単さがある。
  • ⑤プチサボりチャンス
    客が少ない時間には立ち話もでき、キッチンや控室ではさらに自由に話せる。
  • ⑥愛のファシリテーター
    店長が気さくで明るいと、自然に大学生同士の関係も良好になる。
  • ⑦平等な関係
    明るい店だと「あだ名呼び」「敬語禁止」でフラットな関係性がつくられる。
    (※ただし、形式だけ真似しても平等関係は作れない点には注意が必要です。)

ベースコミュニティ導入の注意点

ただし、ベースコミュニティには「居心地が良すぎて滞留してしまう」というリスクがあります。

ウォームアップのはずが、そこに留まってしまうのです。
だからこそ、設計と同時に出口戦略が必要です。

例えばミーティングであつい青春3条件により近いチャレンジに挑む魅力を伝えたり、その日の学びを振り返る時間を設けたりすることが大事です。

ビーンズでも、フリースペース後に正式メンバーへのチャレンジを促す場を定期的に用意しています。

さいごに

Z世代社員に「あつい青春」を経験してもらうには、
いきなり高負荷な挑戦に投げ込むのではなく、
まずはベースコミュニティでウォームアップしてもらうことが欠かせません。

実際にどう設計し、どう現場に導入するかについては、研修やコンサルティングで詳しくお伝えしています。
興味を持っていただけた方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

長澤 啓のアバター 長澤 啓 ワカサポ編集長/悩める20代社員育成の専門家
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