児童精神科医 三木崇弘×学習支援塾ビーンズ 長澤が語る「若者(ザルファ世代)の悩みの本質」

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本記事は、児童精神科医の三木先生をお招きしての対談企画です。

(写真左)三木 崇弘さん 児童精神科医
愛媛大学医学部卒。国立成育医療研究センターこころの診療部で児童精神科医として勤務。
2019年4月よりクリニック、東京都公立学校スクールカウンセラー、児童相談所、児童養護施設、保健所など医療・教育・福祉・行政の各分野で臨床活動。
現在、地元である兵庫県姫路市にUターンし、社会医療法人恵風会高岡病院勤務。

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 博士課程 修了。早稲田大学ビジネススクール修了。
週刊モーニングで連載中の児童精神科を舞台にしたマンガ『リエゾン-こどものこころ診療所-』監修。

三木先生について、くわしくは……

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(写真右)長澤 啓 学習支援塾ビーンズ 塾長
学年ビリから二浪し東京大学へ​入学。ビーンズの活動が楽しすぎ、留年。経済学部経営学科卒。
副代表として、講師の採用育成プランの策定・外部協力者との渉外・経営企画までマルチにこなしながら、日々「ビーンズメソッド」を洗練させている。
さらに、親との衝突が絶えなかった自身の経験を活かし、保護者さまと月100件以上やりとりを実施。趣味はビールを飲みながら出汁巻き卵をつくること。

■インタビュー/詳しい自己紹介
学校の勉強についていけなかった僕が東大に合格するまでと親と対立した日々について
勉強へのやる気が出ない中学生を変えるために親ができることを学習支援のプロに聞きました
プロに聞きたい!不登校や勉強嫌いな中学生・高校生が進路を選ぶタイミングで、親に何ができるの?

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あ、この対談記事の趣旨について説明する前に、一旦ゴマをすらせてください!

愛って何だ? 勇気って何だ? 長引く不況の原因は? 邪馬台国ってどこにあったの? 青信号ってどう考えても緑なのになんで「青」信号なんだ?

そんな、人類の疑問への究極の答えが詰まった一冊、『リエゾンーこどものこころ診療所ー 凸凹のためのおとなのこころがまえ』が、講談社から発売中!
(講談社さん、僕にも執筆の機会ください……! 御社の本社ビル、弊社からギリ歩いて行けるんで、今度そちらで打ち合わせしましょうね。あ、ちなみに僕が好きなお茶は「綾鷹」です。)

著者は、愛と平和の伝道師……
三木崇弘先生!!!!

1冊買えば、涙する。2冊買えば、笑顔になる。3冊買えば、商売繁盛・家内安全・子孫繁栄・不老不死・武運長久、間違いなし!

是非、ご購入ください!

ボコーッ(三木先生から本気でぶん殴られる音)

あ、すみません……

モーニングで連載中で、ドラマにもなっている『リエゾン-こどものこころ診療所-』の監修を務められている三木先生のご著書です。
悩める10代と日々接する我々が見ても本当にためになる考え方も多いのですが、ビーンズ三木先生の「悩みつづけていいじゃない」という優しいスタンスに救われます……!

是非!!! かなり人気なので(マジで本当)、早めに購入されることをお勧めします。ビーンズでは布教用に二冊置いてます。

ふう…… すりゴマこえて、練りゴマになっちまったぜ……

三木先生と講談社さんのビーンズへの好感度をマックスまで高めたところで、今回の対談の趣旨を説明いたしますね。

ビーンズは対外的には「悩める10代をサポートする塾」として知られています。
ただ、それだけではビーンズが取り組んでいることの全てを言い表せていません。

ここで宣言しますね。

ビーンズは、「ザルファ世代の生きづらさを探求し、癒やす集団」です。

なんのこっちゃわからんと思います。

まず、「ザルファ世代」について説明しますね。

ザルファ世代とは、Z世代と、その次のアルファ世代をくっつけたビーンズの造語。

そもそもZ世代の幅が広く(1990年代中盤から2010年代序盤までに生まれた世代)、次のアルファ世代(2011年~生まれ)との間に、もう一つ世代があると考え、作り出された概念。

大学1年からコロナ流行、もしくは高校時代の過半がコロナ流行と重なっている世代のこと。少年期や青年期をコロナに何かしら影響された世代とも言い換えられる。

そして、三木先生はビーンズのザルファ世代への課題意識に共感してくださり、大学生インターンたちと月に1回、対話の機会(三木ゼミ)を設けてくださっています。
同時に、僕と一緒にザルファ世代の生きづらさについて一緒に探求してくださっております。

今回は、三木ゼミの内容をうけて、僕と三木先生が探求し、日本中の大人があまり気づいていない「ザルファ世代が抱える痛み」について対談形式の記事にしました。

この記事を読むことで
「児童精神科医の三木先生」ではなく……
「いつもの優しくてコミカルな三木さん」でもない。
「ザルファ世代の生きづらさを深く考える三木先生」という、全国8億人の三木先生ファンの方にとって新鮮な三木先生の一面を垣間見ることができると思います。

目次

児童精神科医 三木崇弘×学習支援塾ビーンズ 長澤が語る「若者(ザルファ世代)の悩みの本質」

三木ゼミでの大学生との対話

三木:長澤くん、相変わらずやかましいなあ……

長澤まず、今の大学生インターンたちへの全体的な印象の話にざっくり入っていきたいんですけど……!(ワクワク♪)

三木:いきなり本題やん…… まずはこう、アイスブレイク的ななにかから始めたりしないの?

長澤確かに。まずTWISTER(ツイスター)とかやります?

三木:……。いえ、結構です……。

じゃあ、長澤くんがくれたテーマからお話しすると、やっぱり若い人がこう、悩みながら変化していくのを見るのはめっちゃ面白いなって。

あ〜先月からは、そう変わったんや〜みたいな。翌月はまたこう変わって……とか。のむしゅんとかは見ていてすごい面白い。

長澤月1回の定点観察が面白いんですね。

三木:そうそう。ガッコンガッコンしている感じが。のむしゅんはやっぱり、それを隠さなくて、ガンガン言ってくるところがいいよね。
俺、ちょっと言っていいですか?」みたいな。
自分のガッコンガッコンしているところを他のインターンのみんながいる前でつい言っちゃう感じがあって、とってもよいなと。

一方、他のインターンたちは、自分のガッコンガッコンしているところを、うまく隠せてしまうから。そうそう乱れたことを言わない。

でも、そういう(我慢できなくて)こぼれちゃって何かグダグダ論議をしてる若者を見るとうれしいよね。「うんうん、もっとグダグダしよう」って感じ。

長澤三木先生としては、三木ゼミに関して言うと、答えを見つけるっていう感じじゃなくて、振れ幅をガンガンにして振れてこうぜ! ガッコンガッコンしようぜ! っていうスタンスなんですか?

三木:そう、なんかもっとグダグダになればいいのに、とは思う。みんなまだ、お行儀が良すぎるよね。

あーでもない、こーでもないとか言って、ガッコンガッコンしつつ、ちょっと1回いらんことを言ってみたりして。

そうすると、彼らは後からちゃんと自分で反省するよね。そして、「でもやっぱりこうよな!」って思う。

その方が本人の納得感もあるし、外向きの説得力もやっぱ段違いになると思っている。

本人の悩みが渦巻いている中で、苦しんで練りに練って出てきた言葉みたいなのを獲得してほしいというか、生み出してほしいというか……。

その方が何かやっぱり、いい味わいのある大人になるんじゃないかなっていう気がするよね。

長澤なるほどね〜。すごいそもそもの話なんですけど、先生ご自身は三木ゼミって何をする場所と解釈されてます?

三木:最近は、みんなが何かとりあえず思ってることとか悩んでること、ただ言いたいことを言ってそれに対してみんながあーだこーだ言うみたいな場所にしている笑

長澤なるほど。面白い! 三木先生の中で、三木ゼミの思い出を振り返ったときのハイライトみたいなのってありますか? あの瞬間、おもしろかったな〜みたいなの。

三木:一番最初にインパクトがあったのは、のむしゅんが僕に噛みついてきたことかな。笑

長澤やったー! 若者のだる絡み〜。うちの若いもんがすみません〜笑 どんな感じだったんですか?

三木:まだかなり初期、2回目か3回目くらいの時だったかな。それもあって、あのときは僕すっごい焦って、やべーーーと思って。
どうやってちゃんとしたことを言おうか考えてたけど。最終的には、対立構造ではなくて、「みんなで悩む」みたいなところに落とし込めたのはすごい良かったなって思っていて。
あそこで対応をミスってたら、三木ゼミが皆にとって安心安全な場じゃなくなってたなっていう。

長澤修羅場、戦国時代と化してたわけや。笑

三木:それが30年前40年前だと、それでこの大人なんやねん!やったるぞ!ってなる学生も居たと思うけど、今はそういう感じじゃないよね。

「なんか、おっさんが訳わからんこと言ってるから、いっちょ噛みついたろ!」みたいな反骨心はないな~。

だから、みんなで悩める場みたいになっていったのはちょっと良かったかもしれない。

長澤またそもそも論に戻っちゃうんですけど、三木ゼミっていうのはどっちかっていうと、大学生インターンたちが、中学生・高校生の生徒、”悩める10代”をサポートする際の悩み、例えば
「生徒たちに対してどう言葉がけしよう……」みたいな、社会課題について論じるとかではなくて、「1人1人の内面のモヤモヤを打ち明け合うみたいな時間」なんですよね?

三木:うん。2回目ぐらいからそんな感じになったかな。

最初はね、一応なんていうか、「生徒対応のアドバイスの場です」みたいなたてつけで始まったんだよね。
でも、2回目3回目ぐらいからそんな感じではなくなって……もちろん、生徒対応に関する相談も言ってくれれば全然喋るけどね 笑

三木先生から見た大学生(ザルファ世代)たちの悩みの本質

長澤三木先生から見える「大学生たちはこういうことに悩んでるのかな」みたいなものってあったりしますか?

三木:「自分が思ってることを言えない」。あと「他人とのコンフリクト(対立)を避ける」だね。

長澤それはありますよね。大学生インターンが「好かれるよりも嫌われたくない」をすごい優先するなっていうのは、私も思います。

あ、先生、今一瞬しょっぱい顔になりましたけど、三木先生の中で何かしらの感情の揺れがあったのかなと推察してしまって 笑

三木:「好かれるよりも嫌われたくない」。うん。全然それはそうだよなと思って。

長澤逆に言うと、三木ゼミの中ではみんな本音を打ち明けて、何なら泣いてる大学生とかいましたよね。最初の方。

三木:泣きながら自分の気持ちを言う、みたいな。
というより、自分の気持ちを言うと涙が出てしまうのかな? 自分の感情を発露するっていうことを経験する機会があまりなかったんだろうね。
でも、それだと人と人との相互理解が絶対深まらないからね。なんかやっぱり一緒にいると安心感が乏しくなるんじゃないかな。

長澤そうですよね。

三木:傷つけない関係性で一緒にいるのもいいかもしれない。でも、それだと根本のところでは満たされないと思うんよね。

長澤そうそう、そうなんですよ。僕の話に乗っけちゃうと、「好かれるよりも嫌われたくない」を優先すると他人と深く関われないじゃないですか。

他人と深く関われないと、自分の中での愛の備蓄量が減るじゃないですか。
そうすると、自信がなくなり、他人との関係においてリスク回避的になる。そして、また「好かれるよりも嫌われたくない」ことを優先するという悪循環に綺麗にはまってしまう。僕はこんな風に感じています。
ザルファ世代「好かれることよりも嫌われないことを優先する」学習支援塾ビーンズ 児童精神科医 三木崇弘 学習支援塾ビーンズ 塾長 長澤啓
三木
:たしかにそうやね。

長澤逆に、うちに入ったばかりの大学生インターンにとって、そういう本音を打ち明け合うみたいなコミュニケーションってめちゃくちゃ難易度高いですよ。
三木ゼミでは、それができてるのっていうのは何でですか?

多分、三木先生の児童精神科医っていうバックグラウンドはあまり関係ないような気がしていて。
もっとこう、三木先生が大事にしている信念とか人柄とか、そういうものが関係しているのかなと思って。

三木:僕の「仮に口が悪かったとしても、その人たちのことを駄目だとか嫌だとか思ってないから」的なスタンスが、インターンの皆に伝わってるからだといいな~とは思う。

これは専門家としては非常によくないんだけど、僕は信頼関係が出来た患者さんに対しては、結構ラフに話すのね。関西人だから患者さんのボケにツッコむときは、「アホちゃうか」って言っちゃうし。
それで今のところ問題になったことはないから、その裏にある愛情をちゃんと感じ取れる人にやる分には多分あまり問題にならないかな。

僕も基本的には、人との対立はあまり好きではないので、割とグジグジ悩んだりするけどね。

あ、3回目ぐらいのときに、社会から何を求められてるのかとか、何どういうスキルを身につければみたいな話をしてるときのことを思い出した。

その時、しばらく悩んだ後に「ちょっとこんなこと言ったらあれやけど、ぶっちゃけ学生がちょっと頑張って身につくぐらいのものって意味ないから」みたいな話をしたんですよ。

児童精神科医 三木崇弘 学習支援塾ビーンズ 塾長 長澤啓

長澤やったーー!笑 究極の正論。笑

三木:「だから、そんな悩んでも意味なくない?」みたいなことを言ったときの学生たちがすごく良くて、その本音トークっぽいところが彼らにとって新鮮だったのかなと思って。

長澤彼らからしても肩の荷がおりた感じだったのかな。

三木:そんなことあんまり大人って言ってくれないじゃん。

社会人の仕事をしてる側からすると学生が少し頑張って身についた程度のスキルは誤差ぐらいしかないから。
「学生がどういうスキルを持ってるかっていうのはあんまり関係なくない?」みたいな。

「自分がスキル的に完成品になってから社会に出ないとマズい」みたいな感覚は、あんまりなくていいと思うんよね~。

長澤今、キーワード出ましたね!「完成品じゃないと社会に出られない感」。めちゃめちゃ良い! これ、メモらせてください。

三木:やっぱり彼らは「自分は、ちゃんと完成品にならないと駄目だ」と思ってるから。

採用する側はそんなにそこを気にしていないと思うんだけど。

極一部の超エリートみたいな、今すぐプログラム書いてゴリゴリやっていきなり年収2000万みたいな人は別とするけど…… 日本の大学をそこそこの成績で出ているぐらいの人って、何ができるかこぎれいにまとめてくるやつよりは面接のときにガッコンガッコンになって、「いや違うんですよ!」っていうような子を採りたいんじゃないかしら。

人事の専門家じゃないから分からないけど。

長澤そっちのほうが、伸びしろを感じますよね。

三木:そうそう。「こいつ面白いな~」みたいな。そういうところに(学生が)安心感を持てていない…… それは社会からのメッセージがずっと間違って発信されているからだろうけど。

大学生(ザルファ世代)たちのために大人ができること

欲しいのは無条件の愛


長澤「完成品じゃないと社会に出られない」っていう三木先生のキャッチフレーズに乗せられて僕も言っちゃうんですけど、人間は無条件の愛が欲しいわけじゃないすか。大学生たちもそうだし、僕だってそうだし、三木先生だってそうだし。

そして、無条件の愛って、他人からもらうしかないじゃないですか。自分の中では錬成できないから。「他人から」プラス「無条件」っていう2つの前提があって成立するものだと思うんですよ。

それなのに、なぜか謎のバイアスがかかって、自分の中に根拠を作れば愛されるのではないかみたいに、僕も含めてザルファ世代は思ってしまうんですよね。

自分の中に根拠を作るために、めっちゃスキルを身につけるとか、いろんな意識高い系の長期インターンに行くみたいな。

でも、それって結局、無条件でもなければ、「他人から」っていう前提にも反してるから、結局苦しいままなのかなって、すごい思ってます。

三木:なるほどー。でも、それって社会じゃなくて親御さんの責任ということにはならないの?

長澤うーん。保護者もあるかもしれないけど 「個を伸ばせ」とか、「個性を伸ばして尖ってイノベーションを起こせ」とか「0から1をクリエイトしろ」みたいなメッセージは、主に社会からザルファ世代に突きつけられている気がします。

三木:ハッシュタグみたいな、何かしらのタグが自分についていないと、自分に価値を感じられないっていうことなのかな。

長澤:「タグが自分についていないと安心できない……。このキーフレーズもすごくいい! いただいていいですか? 笑

社会が「ザルファ世代」に突きつけていること

長澤一方で、大人は大人で「もう日本沈没だからやばいぞ!」っていう危機感で、若い世代のイノベーターに期待したいっていう気持ちが強い気がしています。

大人は「イノベーション!イノベーション!」ってめちゃくちゃ若者を煽ってるんだけど、それで若者たちはきつくなって、結局パワーダウンして、イノベーションどころじゃなくなるという。

とはいえ、大人の気持ちはわかるんですよ。

これは僕がソーシャルグッド界隈にいるからですが……
「日本社会に課題は満載、そして少子化だからその社会課題を解決する担い手は減り続ける……」
だからこそ、その数少ない若者が主体的に頑張って社会課題に向き合って、あわよくば起業して、イノベーションを起こして社会課題を解決してほしい
意識が高くて行動力がある人があつまるソーシャルグッドの勉強会だと、こういうメッセージがめちゃ多くて。

で、このメッセージ自体には、反論の余地がない。

そりゃそうしないと社会課題は解決しないし、僕たち全員の生活も苦しくなっちゃう……。

ただ、そのメッセージが先行しすぎちゃってるのかなとも感じるんです。

「日本はこれから沈没するぞ~」
「だから、お前たちは今のままではダメなんだ〜。主体的になれ〜。イノベーション起こせ~。」

って。

こういうメッセージが、果たしてザルファ世代を奮い立たせているのか。かなり疑問です。

要は、大人が「個性を伸ばして尖ってイノベーションを起こせ」とか煽れば煽るほど、若者は他人と比較するようになります。そしてエネルギー減していく……。

なぜかというと、当の若者が努力しているかどうかにかかわらず、「行動力があって、いろいろスキルフルで、イノベーションを沢山起こすスーパーマンにならないと、自分は愛されないんだ」っていう謎のバイアスがかかっちゃって不安になっていると思うんです。

で、その不安がエネルギー源にはならず、エネルギー減になっているんじゃないかって。

三木:あ~、そこは減るんやなぁ…… きついな〜。

とはいえ今の時代で、そういうメッセージを一切気にせずに、生き生きしていられるのも、かなりレアケースな気がする。

かわいそうっていう言い方はあれだけど、大人になることってめっちゃ面白くてワクワクするはずなのに、そう思えていないっていうのがね。

「他人との比較」がエネルギーを削る

長澤:ここで出てきた「他人との比較」というキーワードなんですが、ビーンズの生徒たちも、やたらと「他の同学年の人は、ちゃんと学校行ってるのに……」と言っては自家中毒になります。
そして、大学生も「他の大学生は〇〇してるのに」と言います。この〇〇には、”長期インターン”や”資格勉強”とかが入ります。

例えば、インターンに入ったばかりの大学生は、先輩インターン達を見て必ず「先輩達は皆すごい人。自分の軸があって、行動力もある!」と比較するんですね。

これ、ヤバいのが、本当に寝食削って努力している人でも、「上には上がいる!」って常に不安を抱えていること。

僕の友達の話をします。彼は、司法試験を大学在学中に受かって、弁護士として活動して、休みの日はソーシャルグッドな活動をしてて、さらに長澤と朝まで飲むような体力もある人です。しかし、彼ですら「イーロンマスクが●歳のとき、彼はもう××をしていた。それに比べて、自分は……」と不安になってる。

三木:ビーンズの生徒も、大学生も、弁護士も、そこは一緒だと。きついなぁ。

大人は、若者のグルグルした悩みに付き合おう

児童精神科医 三木崇弘 学習支援塾ビーンズ 塾長 長澤 啓

三木:もうね、ザルファ世代全員の横に立って、「お前、おもろいやん!おもろいやん!」って言ってあげたい 笑

長澤そうそう!「イノベーション!イノベーション!」ではなく、おもろいやん!おもろいやん!がいいですね。

三木:「こんなんあるで!こんなんなるで!」でもいいかも 笑

長澤もちろん「イノベーション!イノベーション!」がしっくりきていて、それで頑張れる若者もいると思っています。「チャレンジしたい!」っていう気持ちは誰しもありますから。

だけど、そういう若者にも、ずっと誰かがありのまま欲求を満たしてあげるというか、無条件の愛を注いだ方が良いと思うんですよねぇ。

三木先生の場合は、大学生たちのあーでもないこーでもないというグルグルした悩みに付き合ってあげるっていう形でそういう愛を提供されてると思ってて。

そういう形で無条件の愛をもらえて、横でなでなでする大人がいないと行動起こすの無理じゃね?っていう。

そうでないと、「よし!あとは自分のやりたいことベースだけでイノベーションやったろう!」みたいな子は生まれないなって思ったり。

三木:どういう意味があってどういう成果を生むかわからない、若者の「グルグルと悩む時間」に誰かが付き合うみたいなことが注目されなくなってんじゃないかなっていう感じはあるな〜。

「それ本当は大事なんちゃう?」っていう気がするけど。アウトカムが先過ぎてコスパの計算ができなかったり、効果のほどがよくわかんなかったりして。

長澤企業経営の合理性からいったら、もう完全アウトですよね。笑
少なくとも短期的には。笑

三木:短期でしか見てないからやっぱりそうなるよね。

長澤資本主義の論理でいったらそうですよね。

三木:やっぱり社会がよくないのか〜。

長澤グルグルした悩みに付き合う時間って、資本主義の論理で言ったら、やっぱりコストって思われるだろうなー。

三木:ん〜…… それは何か社会全体としては、より衰退の方向に向かいそうな気がする〜。

長澤本来は、そういう若者たちのグルグルした悩みって、大学の中、もしくは地域コミュニティとか家族とかそういうとこで包摂されてたはず。

でも、大学も地域コミュニティもダメになって、ビーンズっていう一つの組織にしわ寄せが来てるっていう……。これはどの会社組織だろうがNPOだろうが同じだろうなっていう気はしています。やや経営チックなことをいうと、このグルグルした悩みに付き合う余力、というか胆力を持った会社しか今後の日本で生き残っていけないのかなって思いますね。

三木:なるほどね。その視点はありかもしれないね!

人材育成ができる会社っていうのも、そういう会社だけになっていくかもしれないからね。

あとは資本主義的にガーッと稼いで、若者たちが悩みでグルグルするところを卒業して、人材としてある種完成した完成品をバンバン買う会社になるかどうか。

でも、完成品になると結局人件費って言う名の値段がどんどん高くなるから、どっちがコスパがいいかっていう話だね。面白いな〜。

長澤悩める大学生インターンたちをいっちょまえにしてこのまま社会に送り出すのも、気が引けます。企業のことを信頼していないので 笑

悩める20代の悩みに対する解像度があまり高くない、自分は営業も社内営業もガンガンいけてたタイプの人が人事部長でしょ? それだと、ザルファ世代はきついな〜と思っています。

そういう企業の人事担当者を変革する事業とかも、いずれはビーンズで蓄積したノウハウをもとに三木先生とタッグを組んでやりたいなって思ったりしてるんですよ。

三木:いいな〜。若者の人材育成コンサルとかそういうものを外注として受けても面白いかも。

長澤そうそうそうそう。
「ビジネスにしたい!」っていうよりは、三木先生とか僕とかが毎日あんなに時間かけ、睡眠時間を溶かして彼らと対話したのに、彼らが社会に出て潰されたら「あれ?今までの時間は何だったんだ?」って。それはマジで嫌です。

三木:確かにな〜。

長澤ビーンズの頑張りを無駄にされたくないっていうモチベーションが一番強い。笑
せっかく元気にしたのに、結局、社会で潰されました、みたいな結末を見るのが一番いや

三木:一番良いのは、学生たちが「これはやばい環境だな」って自分で判断できたり、自分で自分のストレスをセルフケアできるようになったりすることだね。でも学生の間の1年ちょっとぐらい(の三木ゼミ)だとやっぱりなかなかそこまではいかないからね〜。

長澤僕もそうですけど、社会人1年目2年目とかって大学5年生6年生。ちょっと意識高くて行動力ある人で、ようやっと大学院生みたいなもんだと思っていてて。

だから、まだまだ伴走は必要だなと思うんですよ。で、社会側がそういう伴走してくれるかというと、かなり怪しい。

じゃぁビーンズでザルファ世代をずっと伴走できるかというと、そんなわけない。

三木:ザルファ世代の若者を社会に送り出したくない気持ちもあるけど、ビーンズで全員を抱えられるわけでもないしなっていうね。

長澤だったら送り出す先の社会や、企業の側を変えるしかないっていう気はします。

ザルファ世代のグルグルした悩みに付き合う胆力を持とうっていう方向性は、企業にとっても合理性のある選択肢だと思うんですよね。結局、そうせざるを得ないよなと。

大学生がグルグル悩む時間をつくりたい

児童精神科医 三木崇弘 学習支援塾ビーンズ 塾長 長澤 啓

あ……! これだけはちゃんと聞いてこようみたいな質問を全然聞いてなかった!笑
一番最初の質問で聞くはずだったんですけど……。

三木先生、ビーンズにこれから期待していることとか、やりたいことって何でしょうか?

三木:僕が関わってるのが大学生インターンの育成だからやっぱりそこかな。

若者育成という大学の機能を部分的に肩代わりするみたいな。

特に大学とか公的なそういうものがどんどんそういう力を失っているから。

学生の活動としてのサークルとか学生団体でやってきたそういうものが、コロナでだいぶポシャってきて……。そうなったときの受け皿かな。青春経験みたいな。青春じゃなくても良いけどグダグダする時間……

ちょっとうまく言えないけども、学生時代に「ああでもないこうでもない、どうしたらいいか先が見えない……」ってもんどり打ってゴロゴロする場みたいな。

長澤ビーンズの生徒にはそれがやれているんですけどね…… 大学生インターンたちにはまだまだ足りてなかったなーっていうのは、三木ゼミを見て明らかになった残酷な真実でしたね。

そもそも人間にとってグルグルと悩む時間に付き合ってもらうことって、誰しも必要なんじゃないかなっていう。生徒だけじゃなくて大学生にも、そして多分大人にも必要ですよね。

三木:今の大学生は、グルグルと悩む時間に他人に付き合ってもらう経験があんまりないような気がする。悩みを友達に聞いてもらっている人もいるにはいるけど、なんというか、深掘りができていない気がする。直感だけど。

だから、まず大学生たちがグルグルと悩む時間を大人に聞いてもらって、その意味とかありがたみとか安心感を感じてもらった方が、実際に自分が聞いてあげる側になったときに一生懸命できる気がする。

長澤そうですよね。

三木:だから、三木ゼミはテーマとか形を変えながら、こういうことをしていけたらいいかなって……。多分メンバーが入れ替わっていくだろうからだけど。そのときのメンバーとか雰囲気に合わせて、その場にいる20代でグルグル悩んで、ああでもないこうでもないっていう時間が過ごせたらいいな。

ザルファ世代の生きづらさについて教えてあげたい

長澤:じゃぁ、三木ゼミ以外で、ビーンズと今後一緒にやりたいことって何でしょう?

三木:そうだな〜。まあ、今の20代の生きづらさを理解できない30代後半以降の大人たちに、ザルファ世代の生きづらさについて教えてあげたいよね。

長澤確かに……。
そういえば、この前、がっつりバブル世代の方とお話ししたんですよ。
バブルの頃に花もうらやむ大学生。アッシーを葉山に呼んで、パーティーは船。デートはセスナ!

三木:陸・海・空 制覇しとる!

長澤もうやりたい放題 笑

仕事のほうもモーレツで、毎日が夜討ち朝駆け。もちろん帰宅は翌日早朝が当たり前。

多分、大変なことも無数にあったと思うんですけど、仲間と楽しく生きてきていて。

どのエピソード聞いても、地中海的にカラッとしてるんですよね。気持ちがいい。

で、ご結婚されて、お子さまも大きくなって。今も自分がやりたい仕事に熱中して……っていう方。

その方にさっきの「好かれるよりも嫌われたくない」問題を話したら、「えーー!?」ってなっていて。まじでわかんないらしいんですよ。

もちろん、人生経験豊富で、いろんな方にお会いされて、かつ底抜けに優しい方なんで、順序だてて話ししていくと「それもありうるか!」みたいな話になったんだけど。

でも、やっぱりバブル世代の方たちは、今の20代の悩める気持ちを想像しづらい方が多い気がします。

僕から理屈を言われて、理屈を理解はしても、あんまり体感値がないから、深いところは分からない。分かりようがない。

三木:そら、そうだよな~。僕もビーンズで大学生と関わるまで分からんかったもん 笑

長澤そうなんですよ。まだこのテーマは誰も手つけてないんで、三木先生と僕が”時代のカッティングエッジ“ですねっていう。

三木:……そうなのかもしれん……!

対談を終えて……

長澤あ、時間になってるじゃん…… 三木先生、僕は今日これで業務終了です。というわけで、本題の「三木先生が若い頃やらかしてしまった話」に行きましょうか。

プシュッ(何かしらの発泡性飲料の缶を開ける音)

三木:え? この後飲むって聞いてない……

長澤三木先生の分もここにありますよ。はい、かんぱーい。お疲れっした~。

三木:え?

長澤あ、こっからさきの音声が流出すると、三木先生が日本で生きにくくなるから、録音は切っときますね。

ブチッ……

翌朝、圧倒的に寝不足な顔で出勤する三木先生の姿が観測されたとかされてないとか……
めでたしめでたし。

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